保佐とは

 保佐とは,法定後見制度の一類型であり,認知症や知的障害,精神障害等,精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な方を支援する制度であり,保佐人には,民法13条に定められた行為について同意権及び取消権与えられます。

 事理を弁識する能力が著しく不十分とは,自己の財産を管理又は処分するにあたり常に援助を必要とするが,日用品の購入等,日常生活における法律行為を行う意思能力は有している状態であり,具体的には,不動産や自動車の売買や金銭の貸し借り等,重要な財産の管理又は処分行為を自分で行うことが困難な場合です。

保佐開始の申立て

対象者

 保佐の対象となる者は,事理を弁識する能力が著しく不十分な者で,従来の「心神耗弱者」が改められたものですが,その判断能力の程度は従来と同じで,日常生活に必要な買い物など簡単な取引はできるが,民法13条に規定するような重要な法律行為を単独ではできないという程度です。

 なお,保佐は,旧民法に規定する準禁治産に相当するものですが,旧民法の準禁治産の対象とされていた,単なる浪費家は,補佐の対象とされなくなりました。

申立権者

 保佐開始の申立権者として,民法第11条では,本人,配偶者,四親等内の親族,後見人,後見監督人,補助人,補助監督人又は検察官が規定されています。

 また,民法上の申立権者の外,任意後見契約法第10条において,本人の利益のため特に必要があると認めるときに限って,任意後見受任者,任意後見人及び任意後見監督人にも保佐開始の申立権が認められています。

 さらには,65歳以上の者,知的障害者及び精神障害者に関しては,申立権を持つ親族がいない場合,あるいは親族がいてもその者による申立てが期待できない場合など,その福祉を図るために特に必要があると認められるときに限って,市町村長にも,保佐開始の申立権が認めれています(老人福祉法第32条,知的障害者福祉法第28条,精神障害者福祉法第51条の11の2)。

同意権拡張の申立て

 被保佐人の判断力の程度により,民法13条に定められた保佐人の同意を要する行為の範囲を広げる必要がある場合には,家庭裁判所に対して,同意権拡張の申立てを行うことができます。

 同意権拡張の申立ては,保佐開始の申立てと同時になすほか,開始後になすこともでき,また,一度拡張した後でさらに追加的になすこともできます。

 拡張した同意を要する行為は,本人,配偶者,四親等内の親族,保佐人,保佐監督人又は検察官は,家庭裁判所に対して,その拡張決定の全部又は一部の取り消しを求めることができます。

代理権付与の申立て

 保佐人には,民法13条に定められた行為について同意権及び取消権が与えられていますが,代理権は与えられていません。しかしながら,本人保護の実効性を図るために代理権が必要な場合には,家庭裁判所に対して,特定の法律行為について代理権付与の申立てを行うことができます。

 代理権付与の申立ては,保佐開始の申立てと同時になすほか,開始後になすこともでき,また,代理権の対象となる法律行為を後に追加することもできます。

 代理権が付与された後,必要がなくなった場合には,本人,配偶者,四親等内の親族,保佐人,保佐監督人又は検察官の申立てにより,家庭裁判所は代理権の範囲を縮減,又は代理権を消滅させることができます。

申立費用の負担

 申立てに要する費用としては,以下の3つに分けることができます。

種 別 例 示
手続費用 裁判上の費用 申立手数料,送達等に要する郵券代,鑑定費用,登記手数料etc
裁判外費用 申立書の作成料,裁判所への出頭費用etc
手続費用以外の費用 診断書の作成料,戸籍謄本等交付手数料etc

 手続費用は,原則として申立人の負担となりますが,裁判所は「特別ノ事情」があるときは,本人に負担を命ずることができますので,申立人としては,家庭裁判所に対し,本人負担決定の上申をし,決定が出されればそれに従って本人に求償することができます。

 なお,家庭裁判所実務では,手続費用を含めた申立てに要する費用について,保佐開始後に事務管理の類推により,被保佐人本人に求償することを認めている例が一般的なようです。

申立ての取下げ

 保佐開始については,申立主義を採用していることから,保佐開始の審判確定前においては,申立ての取下げができるとされていますが,本人保護の見地から,取下げを認めない学説も有力であり,また,実務においても,取下権の乱用と認められるべき特別な事情があるときは取下げの効力を否定する取り扱いがなされているようです。

保佐人等の職務と権限

同意権

 保佐人は,民法 条1項に以下のとおり列挙されている行為について同意権を有しています。但し,以下の行為に該当する場合でも,日常生活に関する行為については,本人は,保佐人の同意なく,有効な法律行為を行うことができます。

 【保佐人の同意を要する行為】
 ① 貸金の元本を領収し又はこれを利用すること(1号)
 ② 借財又は保証をすること(2号)
 ③ 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をなすこと(3号)
 ④ 訴訟行為をなすこと(4号)
 ⑤ 贈与,和解又は仲裁合意をなすこと(5号)
 ⑥ 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をなすこと(6号)
 ⑦ 贈与若しくは遺贈を拒絶し又は負担付の贈与若しくは遺贈を受諾すること(7号)
 ⑧ 新築,改築,増築又は大修繕をなすこと(8号)
 ⑨ 民法第602条(短期賃貸借)に定めたる期間を超える賃貸借をなすこと(9号)

 被保佐人は相当程度の判断能力を有していると考えられるため,その自己決定権は尊重されなければならず,保佐人が被保佐人の利益を害する虞がないにもかかわらず同意しないときは,被保佐人は家庭裁判所に対して同意に代わる許可を求めることができます。

取消権

 被保佐人が,保佐人の同意を要する行為について,同意を得ないでなした法律行為は,本人も保佐人も,これを取り消すことができます。

代理権

 代理権付与の決定がなされた場合,その範囲内において,保佐人は代理権を有することとなり,明文の規定はないが,代理権付与の審判の効果として,代理権に付随する財産管理権を有することになります。なお,保佐人に代理権が与えられた場合でも,居住用不動産の処分等については,家庭裁判所の許可を得る必要があります。

身上配慮義務

 保佐人は,その職務を行うにあたり,被保佐人の意思の尊重と身上に配慮する義務を負い,被保佐人の普段の生活状況等を常時把握しておく必要があり,本人の身上に変化が生じ,保護の態様を変更する必要があると認められるときは,別類型の法定後見開始の申立てや保佐開始審判の取消し等を行う義務があります。

利益相反行為

 保佐人又はその代表する者と被保佐人との利益が相反する行為については,保佐人の同意権及び代理権等の権限は制限されます。「保佐人が代表する者」とは,保佐人が他の者の成年後見人を兼任している場合における当該他の者(成年被後見人)や保佐人の親権に服する子等をいい,この他の者や子等と被保佐人との間で利益が相反する場合も,保佐人の権限は制限されることとなります。

 利益相反する行為については,保佐人は,家庭裁判所に対して臨時保佐人の選任を請求しなければなりません。臨時保佐人の権限は,当該利益相反行為についてのみの限定的なものであり,その範囲において,保佐人に関する規定が適用され,当該利益相反行為に関する権限の行使が終了することにより,任務は終了し,地位を失います。なお,保佐監督人がある場合には,保佐監督人が臨時保佐人としての権限を行使します。

事務費用

 保佐の事務を行うために要した費用は,家庭裁判所の審判を得るまでもなく,被保佐人の財産の中から支出することができる。

保佐人等の報酬

 保佐人等は,当然に報酬付与請求権を有するものではないが,家庭裁判所は,被保佐人の資力その他の事情を勘案して,被保佐人の財産の中から,相当な報酬を与えることができ,実務では,家庭裁判所に事務報告書を提出する際に併せて,報酬付与の審判の申立てを行っています。

保佐の終了

終了事由と終了の登記

 保佐の終了事由として,保佐それ自体が終了する「絶対的終了事由」と保佐自体は終了しないが当該保佐人との関係で保佐の法律関係が終了する「相対的終了事由」とがあります。前者には,①本人の死亡,②保佐開始審判の取消し,があり,後者には,①保佐人の死亡,②選任審判の取消し,③辞任,④解任,⑤資格喪失があります。

 被保佐人の死亡によって保佐の任務が終了した場合には,保佐人は,保佐の終了の登記を申請しなければならず,一方,保佐開始の審判が取り消された場合には,家庭裁判所の裁判所書記官から保佐の終了の登記が嘱託されます。

 また,保佐人の死亡,その他相対的終了事由に該当する場合には,新たな保佐人の選任審判がなされることにより,家庭裁判所の裁判所書記官から変更の登記が嘱託されます。

保佐終了後の事務

 保佐が終了した場合,保佐人は,家庭裁判所に対して最終的な保佐事務の終了報告を行うとともに,保佐人に代理権が付与され,被保佐人の財産を管理している場合には,被保佐人の相続人への財産の引継ぎと家庭裁判所への保佐の計算報告を行わなければなりません。