補助とは

 補助とは,法定後見制度の一類型であり,認知症や知的障害,精神障害等,精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者に対する後見制度です。

 事理を弁識する能力が不十分とは,自己の財産を管理又は処分するにあたり援助を必要とするが,日用品の購入等,日常生活における法律行為を行う意思能力は有している状態であり,具体的には,不動産や自動車の売買や金銭の貸し借り等,重要な財産の管理又は処分行為を自分で行うこともできなくはないが,第三者の援助を受けた方が,本人の利益となるような場合です。

補助開始の申立て

対象者

 補助の対象となる者は,認知症や知的障害,精神障害等,精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者であり,民法13条に定める法律行為を単独で行うことも不可能ではないが,判断能力が不十分なため不安があり,援助を受けた方が適当であろうと考えられる者です。

 なお,後見,保佐に該当する者は,除外されることになりますが,保佐と補助の区別は,その判断能力の程度の差ということになりますが,実際上,両者をはっきり区別することは困難です。

申立権者

 補助開始の申立権者として,民法第15条では,本人,配偶者,四親等内の親族,後見人,後見監督人,保佐人,保佐監督人又は検察官が規定されています。

 また,民法上の申立権者の外,任意後見契約法第10条において,本人の利益のため特に必要があると認めるときに限って,任意後見受任者,任意後見人及び任意後見監督人にも補助開始の申立権が認められています。

 さらには,65歳以上の者,知的障害者及び精神障害者に関しては,申立権を持つ親族がいない場合,あるいは親族がいてもその者による申立てが期待できない場合など,その福祉を図るために特に必要があると認められるときに限って,市町村長にも,補助開始の申立権が認めれています(老人福祉法第32条,知的障害者福祉法第28条,精神障害者福祉法第51条の11の2)。

本人の同意

 補助は,後見や保佐に比べて判断能力の高い者を対象とするため,本人の意に反してまで補助を開始することは適当ではないとの考えから,本人以外の者が補助開始の申立てを行う場合には,本人の同意を必要とします。

同意権付与の申立て

 保佐の場合と異なり,補助人は,代理権はもとより同意権及びこれに伴う取消権も,当然には有しておらず,申立人の請求により,民法13条1項に定める行為の一部について付与されます。ただし,同意権及び取消権のない補助開始は意味がなく,補助開始の申立てとともに,必ず同意権,取消権のいずれか又は双方の付与を申し立てなければならず,したがって,補助開始の審判は,必ず同意権又は代理権付与の審判と同時に行われます。

 なお,補助の対象となる者は被保佐人以上に判断能力を有することから,保護の範囲のすべてが本人の自己決定権に委ねられているため,本人の意向により,補助人が同意権・取消権を有さず,代理権のみを有するということも認められています。

 同意権付与の申立権者は,補助開始の申立権者及び補助人,補助監督人であり,本人以外からの同意権付与の申立ての場合には,本人の同意が必要となります。

 代理権付与の申立ては,補助開始の申立てと同時になすほか,開始後になすこともでき,また,一度付与した後でさらに追加的に付与することもできます。また,後に必要なくなれば,本人,配偶者,四親等内の親族,補助人,補助監督人又は検察官は,家庭裁判所に対して,同意権の範囲の縮減させ又は同意権を消滅させる旨請求することができます。

代理権付与の申立て

 補助開始の申立権者及び補助人,補助監督人は,家庭裁判所に対し,民法13条に定められた法律行為についてて代理権付与の申立てを行うことができます。ただし,本人の自己決定権の尊重から,代理権付与の申立てが本人によるものでない場合には,本人の同意が必要となります。

 代理権付与の申立ては,補助開始の申立てと同時になすほか,開始後になすこともでき,また,代理権の対象となる法律行為を後に追加することもできます。

 代理権が付与された後,必要がなくなった場合には,本人,配偶者,四親等内の親族,補助人,補助監督人又は検察官の申立てにより,家庭裁判所は代理権の範囲を縮減,又は代理権を消滅させることができます。

申立費用の負担

 申立てに要する費用としては,以下の3つに分けることができます。

種 別 例 示
手続費用 裁判上の費用 申立手数料,送達等に要する郵券代,鑑定費用,登記手数料etc
裁判外費用 申立書の作成料,裁判所への出頭費用etc
手続費用以外の費用 診断書の作成料,戸籍謄本等交付手数料etc

 手続費用は,原則として申立人の負担となりますが,裁判所は「特別ノ事情」があるときは,本人に負担を命ずることができますので,申立人としては,家庭裁判所に対し,本人負担決定の上申をし,決定が出されればそれに従って本人に求償することができます。

 なお,家庭裁判所実務では,手続費用を含めた申立てに要する費用について,補助開始後に民法697条に定める事務管理の類推により,被補助人本人に求償することを認めている例が一般的なようです。

申立ての取下げ

 補助開始の審判を本人が申立て場合には,当然,本人において,申立てを取下げができ,本人以外の者が申立て場合において,本人が同意しなければ,審判は却下され,結果,取下げと同じ効果が生じ,取下げが問題となることはないと思います。

 取り下げが問題となるのは,補助開始の審判を本人以外の者が申立て,本人が同意しているにもかかわらず,申立人である本人以外の者が取り下げることができるかどうかであるが,本人保護の見地から,取下げを認めない学説も有力であり,また,実務においても,取下権の乱用と認められるべき特別な事情があるときは取下げの効力を否定する取り扱いがなされているようです。

補助人等の職務と権限

同意権

 補助人は,民法13条1項に定められた行為の一部について同意権を有することができるが,その範囲は申立てによって決定されます。なお,民法13条1項に定められた行為は以下のとおりです。

 【民法13条1項に定められた行為】
① 貸金の元本を領収し又はこれを利用すること(1号)
② 借財又は保証をすること(2号)
③ 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をなすこと(3号)
④ 訴訟行為をなすこと(4号)
⑤ 贈与,和解又は仲裁合意をなすこと(5号)
⑥ 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をなすこと(6号)
⑦ 贈与若しくは遺贈を拒絶し又は負担付の贈与若しくは遺贈を受諾すること(7号)
⑧ 新築,改築,増築又は大修繕をなすこと(8号)
⑨ 民法第602条(短期賃貸借)に定めたる期間を超える賃貸借をなすこと(9号)

 補助人の同意を要する行為について,本人の利益を害する虞がないにもかかわらず補助人が同意権を行使しないときは,被補助人は家庭裁判所に対して同意に代わる許可を求めることができます。

取消権

 被補助人が,補助人の同意を要する行為について,同意を得ないでなした法律行為は,非補助人本人も補助人も,これを取り消すことができます。

代理権

 代理権付与の決定がなされた場合,その範囲内において,補助人は代理権を有することとなり,明文の規定はないが,代理権付与の審判の効果として,代理権に付随する財産管理権を有することになります。なお,補助人に代理権が与えられた場合でも,居住用不動産の処分等については,家庭裁判所の許可を得る必要があります。

身上配慮義務

 補助人は,その職務を行うにあたり,被補助人の意思の尊重と身上に配慮する義務を負い,被補助人の普段の生活状況等を常時把握しておく必要があり,本人の身上に変化が生じ,保護の態様を変更する必要があると認められるときは,別類型の法定後見開始の申立てや補助開始審判の取消し等を行う義務があります。

利益相反行為

 補助人又はその代表する者と被補助人との利益が相反する行為については,補助人の同意権及び代理権等の権限は制限されます。「補助人が代表する者」とは,補助人が他の者の成年後見人を兼任している場合における当該他の者(成年被後見人)や当該補助人の親権に服する子等をいい,この他の者や子等と被補助人との間で利益が相反する場合も,補助人の権限は制限されることとなります。

 利益相反する行為については,補助人は,家庭裁判所に対して臨時補助人の選任を請求しなければなりません。臨時補助人の権限は,当該利益相反行為についてのみの限定的なものであり,その範囲において,補助人に関する規定が適用され,当該利益相反行為に関する権限の行使が終了することにより,任務は終了し,地位を失います。なお,補助監督人がある場合には,補助監督人が臨時補助人としての権限を行使します。

事務費用

 補助の事務を行うために要した費用は,家庭裁判所の審判を得るまでもなく,被補助人の財産の中から支出することができる。

補助人等の報酬

 補助人等は,当然に報酬付与請求権を有するものではないが,家庭裁判所は,被補助人の資力その他の事情を勘案して,被補助人の財産の中から,相当な報酬を与えることができ,実務では,家庭裁判所に事務報告書を提出する際に併せて,報酬付与の審判の申立てを行っています。

補助の終了

終了事由と終了の登記

 補助の終了事由として,補助それ自体が終了する「絶対的終了事由」と補助自体は終了しないが当該補助人との関係で補助の法律関係が終了する「相対的終了事由」とがあります。前者には,①本人の死亡,②補助開始審判の取消し,があり,後者には,①補助人の死亡,②選任審判の取消し,③辞任,④解任,⑤資格喪失があります。

 被補助人の死亡によって補助の任務が終了した場合には,補助人は,補助の終了の登記を申請しなければならず,一方,補助開始の審判が取り消された場合には,家庭裁判所の裁判所書記官から補助の終了の登記が嘱託されます。

 また,補助人の死亡,その他相対的終了事由に該当する場合には,新たな補助人の選任審判がなされることにより,家庭裁判所の裁判所書記官から変更の登記が嘱託されます。

補助終了後の事務

 補助が終了した場合,補助人は,家庭裁判所に対して最終的な補助事務の終了報告を行うとともに,補助人に代理権が付与され,被補助人の財産を管理している場合には,被補助人の相続人への財産の引継ぎと家庭裁判所への補助の計算報告を行わなければなりません。